8月9日 夜10時からNHKの特別企画で「生命―孤高の画家 吉田憲治」が紹介された。
1966年にパリのアトリエ17で出会っていらい亡くなる直前までの長いお付き合いだった吉田さんは、既に故人となっている緒方一成のパリ時代の苦楽を共にした親友でもあった。
吉田さんとは、生前ほとんど戦争の話をしたことがなく、特攻隊員だったことも今回はじめて知った。
ただ、戦争は、吉田さんの人生にかなりの影を与えていたことも、なんとなく感じていた。
たしかに、パリに滞在し始めた頃の銅版画の色調は非常に暗かった。
不思議な人で、まったくメチャメチャな日本語とフランス語の混在した吉田語で誰とでも話し、強引に理解させてしまうのは、やはり本人の真剣な訴えと人格の賜物だったと思える。吉田さんに文法はいらなかった。普通なら、何年かパリにいると少しはフランス語の上達度がわかるが、吉田さんのように何十年もパリにいて最初から最後まで同じだった人も珍しい。
それでも、交友関係はどんどん広がり、パリを拠点にロンドン、メキシコ、イスラエル、ノルウェーなど、タフに活躍をはじめた。
吉田さんの絵に変化があらわれたのは、日本から呼んだ奥さんと一緒に暮らすようになってからと思う。だんだん絵のなかに金やカラフルな色が現れはじめた。奥さんの恵美子さんも非常に知的で、影から吉田さんを応援している様子がよく伝わってきた。
その奥さんを失ってから、吉田さんの絵描きとしての本当の人生が始まったように思われる。最初、気になっていた金が落ち着きをみせ、広々とした空間が現れてきたのは、一層精神的ななにかを求めていたのかもしれない。
今回の紹介で、日本ではほとんど無名に近かった作家が知られることになった。
既に、評価のある作家のみが繰り返し紹介されるより、このような形で、無名な作家が紹介されることのほうがはるかに意味深く思われる。
再放映は、8月12日の24時15分からです。
マダム